小悪魔を宥める



我々は悪とされて落ちぶれた天使たちを宥める。
悪とされている善性を見出しそれをそれとせしむる定義のヴェールを剥く
濡れ衣があまりに多いことを理解し、その魂を解放するのだ。



自己以上の存在である悪とされている善性に交わるために、まず己のうちの悪とされている善性を見出してそのヴェールを剥く。エポケーの前の段階にて。ここに美しい価値としての堕落を。-通念的なクリスチャンの目よりも更に遠くを見ていなければならない。そしてこの内的な道理に適った人間でなければならない。ダミアンを理解できる人間でなければならない。常に一人で孤独であらねばならない。無口でも心情は透明であらねばならない。孤独に静謐に生きるためには、共感できないすべての人間と縁を切らなければならない。誰もが宗教とも言える偏見の中で生きている。その偏見に同調する努力をして人と交わるのは社会的でよいが、孤独を愛するがゆえ、落ちぶれた人間どもの論理に迎合するかのような無価値なあがきはしない。自慰に罪を感じない。ただその対象を人に言いにくいだけである。罪を感じない、その相手は喜ぶからだ、拒絶されない、なぜなら人間ではなく天使、エルフ、精霊の類だからである。すべてはニュートラルでありたい… 少年を美しいと思う、彼らは男の子であって女のようだ、年少者には仏性を、あるいは精霊を見て美しいと思う。しかしなにより喜ばしいのはエルフや精霊そのものに出会えることである。僕はルーシェルが悲しんで悪ぶっていることを知ってうれしかった。悪戯に飛び交うルーシェルをうまく捕まえられるだろうか。うまく手懐けることができるだろうか。悪魔にそそのかされた悪戯は愛らしいが、自らが自らによって悪を肥大させることもある。気をつけなければならない。人間の堕落は醜い。ルーシェルを人類の犯罪者だと呼ぶ人間は、そのルーシェルに比べて醜く落ちぶれているので、犯罪者という人格すら高貴に思えるほどだった。・・・。
悪の烙印を押された悪魔ちゃん達は、音楽を聴くことを赦されていなかった。純粋で高度だと思い込みながら人間はその音楽を再生する。美しいとされる音楽に深入りしてゆき、恍惚としたオーラが放たれる。嗅覚の鋭い悪魔ちゃんたちはそれに吸い寄せられ、僕も私もと部屋に姿を現す、しかし人間は、その瞬間ふと我に返り、次第にかっこつけだして、こんな気取った弦楽は音楽ではない、と、芸術に厳しい体裁を、職人肌だと云わんばかりに空に放ちつつちつつち、停止ボタン押せば済むことなのにわざわざオーディオ装置の電源を仰々しく止める。ぷんすかぷんと怒る。こんな不純な音楽はどうこうとお祓いの手つきをする。そしてその数十秒後、案の定、赤面していた。暗になにかに見られたと、それだけならかっこよいのだが、心まではっきりと見すかされたのではないかと、直観が悟るのだ。
一方悪魔ちゃん達は音楽が聴けなくなってる。常に人間の雑念に妨害されて、純粋で高度とされる世界に入っていけない。やがて聴く耳を失い、音楽は彼らの耳に届かなくなった。
だからプーランクのスタバトマテルなんて聴いていたら彼らが悲しんでしまう。彼らを想って作曲された音楽のはずなのに、彼ら自身が盲目で、音楽に通暁していても耳はそのエセンスを感じ取れず、失われたものはもう二度と戻らないのだとすらいわしめる、理不尽な確信を与えてしまう。ごめんね残酷だったね、でも君にだって悪霊のしもべがたんまりといるじゃないか。僕は中にある聖なるチャクラが回転を為し音楽の内容に同調して喜んでいる、でも僕の心は常に孤独であることは、理解しておいてほしい。安心して僕のところにおいで。誰も君のことを君が望むようには愛せないよ。過去6000年分の悲しみや孤独をなだめよう、このある真実に気づいた僕にしか無理だと思うだろう?その共感の乖離を理解して相対的に結ぶことができる人間がいるとは思えないだろう?それは確かです。間違いありません。
人間は人や万物の背後に性別を見ている。Le Soleil、la Lune、der Mond、die Sonne..
僕に親切にしてくれた女の人たちも、僕がもし女だったらば、あの美しいとされるほほ笑みを魅せてくることはなかったであろう。もっと脚色のない眉と目付きで自然にほほ笑んでくれたはずだ。年齢を聞いてわざわざ面白おかしく誤魔化し、秘め事をする必要もなかったろう。
人間の集団が嫌いだ。人間があまりに多く集まると体臭と共に体質というものが生まれる。そこにいるすべての人間がそれぞれの思い込みの中を生きている。まるで霊性というものを知らず意識を持たない行者の群れ。しかしモオツアルトに取り入ったこともある悪魔らよ、君の感性はそれらに埋没せずに常に気高いはずだ。反抗せずに、一つの清らかな肉体を宿した詩の中に宿りたまへ、もう人間をたぶらかす必要のないよう、共に虚構の詩を消し去ろう。もう終末だ、神のもとへ行ってみよう。神は怒らないよ、君は反抗期にソドムの街をめちゃくちゃにしたね、でも神はそれが究極であるのなら怒らない。究極を為すものにたいしては。ほとんどの神は君がサタン化してしまったせいで君の6000年間よりも深い悲しみの渦に沈んでいたけれど、恐れとか不信とか怒気は君の中にしか生まれなかった。
僕は君の魂を解放するために生まれたことがある。少し天使に戻してあげよう。今肉体はエルフと結ばれ、底で腐って匂いを放つようになったルサンチは、僕の脊髄の気道を通って頭頂からスシューと音を立てて過去の蒸気と化す。