「巷」

港は人生の戦いに疲れ倦んだ魂にとって魅力ある休息所である。空の無窮、雲の移動し行く建築、海の移り変る色彩、灯台の灯のまたたき、それらは飽くことなく眼を愉しませるために、巧妙にしつらえられたプリズムである。波また波が、調和的に揺れ動かしている船舶のしなやかな形、それはリズムと美のへの好みを魂に植え付けるのに役立つ。しかも特に、もはや好奇心もなく人間にとっては、或いは見晴台の上に横になり、或いは防波堤の手摺にたれながら、出発するもの、帰り来るもの、尚も望む力を持ち旅を求め富を求める意欲を失わないものの、すべての動きをくまなく眺めることは、一種の神秘にして貴族的な快楽なのである。